大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 昭和55年(ヲ)1137号 決定

申立人 濱肇

右代理人弁護士 中村護

同 林千春

相手方 株式会社 月山

右代表者代表取締役 月山昇

主文

一  相手方が、債権者株式会社月山債務者濱仁間の東京法務局所属公証人太田輝義作成昭和五五年第一一〇六号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基づき東京地方裁判所八王子支部執行官に申立て昭和五五年一一月二六日別紙目録記載の動産に対してなした差押執行は許さない。

二  申立費用は相手方の負担とする。

理由

一  申立の趣旨及び理由

1  申立の趣旨

相手方が債権者株式会社月山債務者濱仁間の東京法務局所属公証人太田輝義作成昭和五五年第一一〇六号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基づき東京地方裁判所八王子支部執行官に申立て昭和五五年一一月二六日別紙目録記載の動産に対してなした差押執行は許さない。

2  申立の理由

(一)  相手方は債権者株式会社月山、債務者濱仁間の東京法務局所属公証人太田輝義作成昭和五五年第一一〇六号債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基づき東京地方裁判所八王子支部執行官にその執行を申立て執行官は昭和五五年一一月二六日別紙目録記載の動産に対し差押執行を実施した。

しかしながら、右差押は民事執行法第一三一条第六号の解釈を誤ったものに他ならず違法であり許されない。すなわち、申立人は個人で開業の内科医であり、同条同号の「技術者」もしくは「自己の知的な労働により職業に従事するもの」に該当し、又本件差押にかかるレントゲン撮影機が同条同号の「その業務に欠くことができない器具」に該当する。

(二)  申立人は住所地において三〇年にわたり、内科、小児科を専門として「浜医院」を開業し地域の医療業務に従事してきたものであるが、レントゲン撮影機は日々の医療業務において必要不可欠な医療器具であり、とりわけ内科診療においては臓器等の透視及び撮影により適切な診療をなすことが要請されており、申立人においても昭和五五年一〇月中には九回使用している。

したがって、本件撮影機が競売に付されれば、申立人の医療業務に重大な支障をもたらすことになり、ひいては地域の医療福祉にも重大な影響を与えるものである。

よって、本件差押執行は違法であり許されざるものであるので、申立の趣旨記載の裁判を求めるものである。

二  当裁判所の判断

1  本件記録によれば、申立人は内科、小児科を専門とする個人の開業医であること、申立人が有するレントゲン撮影機は別紙物件目録記載の一台のみであること、内科医が開業する際まず設置する器材の一つがレントゲン撮影機であること、内科医にとってレントゲン撮影は肺炎、老人性結核、肋膜炎、腸閉塞を初めとして臓器全体の迅速かつ適確な診断にとって不可欠であること、国分寺医師会所属医師の全内科医・胃腸科医一七名のうち、レントゲン撮影機を設置していない者は二名に過ぎないこと、申立人においても昭和五五年一〇月中に九回にわたり同目録記載のレントゲン撮影機を使用したこと、以上の事実が認められる。

2  以上認定事実によれば、申立人は民事執行法第一三一条第六号にいう「技術者その他の主として自己の知的な労働により職業に従事する者」にあたり、別紙物件目録記載のレントゲン撮影機は「その業務に欠くことができない器具」に該当するとみられるから、右物件に対する差押えは許さないと言わねばならない。

3  よって、申立人の本件申立は理由があるから、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 清水研一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例